今回は9月24日(土)に開催された動物愛護講演「人も動物も幸せになれる譲渡とは?」から、新潟県福祉保健部生活衛生課の遠山潤衛生係長の講演を紹介します。 新潟県動物愛護センター(長岡市関原町)は、長岡駅から路線バスで40分という決してアクセスが良いとは言えない場所にあります。しかし、訪れる数は年間約1万3000人。その多さは、行政が運営している施設にも関わらず土日も開館し、随時譲渡を行なっていることが一因となっています。多い日だと犬猫合わせて10匹ほどの譲渡が行われています。 一般的に譲渡前には別日程で講習会が行われますが、同センターではそれを実施しない代わりに、一度の訪問で長い時間をかけて面談を行っています。実際に保護犬・保護猫に触れ合う時間も増やすことで、受け入れるか否かを慎重に判断してもらっているわけです。「車で1時間以上かかる場所に、何回も足を運んでいただくのは無理がある。そんなことでは譲渡数が増えるわけがない」と遠山衛生係長は話します。面談時間も、里親を希望する方の知識に応じて柔軟に対応しているそうです。 またセンターのホームページにもかわいい写真を掲載し、更新頻度を増やすことで常に最新情報を見られるようにしているそうです。パソコンやスマートフォンを使用しない年代の方々にもセンターのことを知ってもらうため、チラシや県が発行する広報冊子、テレビといった媒体への積極的な露出も行なっています。 センターの気配りは人に対してだけではありません。犬猫たちに対しても同じです。遠山衛生係長は、「狭いところに押し込めるのではなく、広いところで習性を見てもらうことが大事」と話します。それぞれの個性にあわせた環境を考えながら飼養し、獣医師と飼育スタッフは犬猫の健康状態や性格などについて毎日情報共有しています。猫のトイレも砂と紙の両方を置いたりと心配りに余念がありません。 動物たちのストレス管理・低減への取り組みは、まさにアニマル・ウェルフェアに配慮した保護と言えます。犬猫が不健康そうだったり、人を見ておびえていれば、センターに来た人たちががっかりしてしまいますし、「飼う」だけでなく「保護」という感覚が強くなってしまいます。遠山衛生係長は、「病気の子をもらってくれというのは、あまりにもおこがましい」と言います。健康的に過ごす子たちを見れば、家族として一緒に暮らすイメージを持ちやすくなり、それが譲渡につながるわけです。 日本ペットフード協会が行った全国犬猫飼育実態調査によると、犬をどこから飼うかという質問に「愛護団体(シェルターなど)」と答えた人はわずか3.8%だったそうです(猫は5.7%)。遠山衛生係長は、それを「我々の施設に来ていない人がまだまだたくさんいるということ。考え方によっては伸びしろがある」と前向きに捉えています。 新潟県動物愛護センターは、今春から新たな取り組みとして「ミルクボランティア」を始めました。ミルクボランティアとは、センターに迎え入れられた子猫を、生後8カ月くらいまで一般家庭で飼育してもらう活動のことです。ミルクとフードはセンターから支給され、現在9家族がボランティアとして登録しているそうです。 子猫は付きっきりで世話をする必要があり、動物愛護センターなどでの飼養は非常に難しいというのが実情です。そのため殺処分対象にもなりやすく、「殺処分ゼロ」に向けて民間のサポートは不可欠です。 また、センターには感染症にかかってしまった保護猫もいることから一般家庭で飼育されることで感染症予防にもつながりますし、人間が大好きになって戻ってくるという副次的な効果もあります。これもまた譲渡先が見つかりやすくなる一因と言えます。 一方で子猫に比べて成猫は里親希望が出にくいことから、毎週日曜日には触れ合い体験イベントを実施したり、飼養教室などの勉強会を積極的に開いたりしているそうです。 筆者が特に興味深い取り組みだと思ったのは、譲渡後の手厚いアフターフォローです。譲渡後にセンターから必ず手紙を出して飼養状況のヒアリングを行っているほか、なんと1カ月以内であれば出戻りOKとしています。 どんなに事前にしっかり相性を確認したとしても、それはあくまで施設内での話。実際に新しい家で生活していく中で、事前面談では気づかなかったことが出てくることもあるでしょう。遠山衛生係長は、「出戻りがあっても、それは当たり前に起こるものだと思ってもらうことが、結果的に譲渡数の増加につながる」と言います。ただ譲渡数を増やすために安易な譲渡をしても、不幸な動物を増やすだけです。無理をせず、人も動物も幸せに暮らすことが一番大切だと伝えました。 ***************** 以上、ペトことさんサイトより転載させて頂きました 立地の悪さは職員の柔軟な対応で補う
犬猫たちのストレスにも配慮
官民の連携で子猫を育てる
人と動物が幸せに暮らすことが大切
殺処分ゼロへ向けて全国の自治体でさまざまな取り組みが行われていますが、新潟県動物愛護センターでは、「譲渡した犬猫の出戻りは当然」と考える意外な取り組みが行われています。そしてその成果は、2015年度の犬猫の返還・譲渡率が57.3%で全国10位となり、犬の譲渡数は初めて殺処分数を上回る結果となって表れています。
新潟県福祉保健部生活衛生課 遠山潤衛生係長