必ず効果がある▲目次へ戻る
強制力の強い防止対策なら必ず効果があがります。スウェーデンには、犬の登録、標識着用、納税を義務づけた法律のよい施行例があります。この法律によって、飼い主がいない犬の90%に飼い主がみつかるようになり、ストックホルムに唯一ある犬の収容施設では、50ある檻がいっぱいになることはありません。このため、有料の「ドッグホテル」としても利用できます。 スウェーデンの各市町村にある専門委員会では、それぞれに年間に納める犬税を規定していて、登録ナンバーを警察が確認できるように、犬は首輪につけていなければなりません。動物病院には、この登録料から、毎年交付金が支給されます。スウェーデン愛犬クラブは、標識方法として耳に入れ墨を施すことを薦めています。 街なかでは、犬を自由に走り回らせるのは禁止で、つないでいなければなりません。また、犬の排泄は飼い主に責任があり、糞をしたら後始末をしなければなりません。 野良犬がみつかると、通常は警察か発見者がつかまえて地元の犬の保護施設に連れて行きます。飼い主が現れるまで、そこで保管されます。飼い主が現れない健康な犬は、その保護施設で里親を探しますが、たいていは、犬を飼いたい人が順番を待っています。 国レベルで有効な対策が講じられていなくても、市町村レベルで導入した野良犬対策で効果があがることもあります。ロンドンの郊外にあるウォルサム・フォレスト対策委員会では、非常に有効な野良犬捕獲制度を運用しています。その概要を付録1に示します。
付録1) ウォルサム・フォレスト野良犬対策▲目次へ戻る
背景
ウォルサム・フォレスト対策委員会(ロンドン郊外にある地方自治体の公的機関)は、3967ヘクタールの面積に9万世帯21万2千人が住む人口密集地域にサービスを提供しています。現在のところ、イギリス政府は国レベルの犬の登録制度を有しておらず、野良犬への対処は、国や政府の機関ではなく地方自治体に責任がゆだねられています。国レベルの登録制度がないことによる不都合にも関わらず、ウォルサム・フォレスト協議会の野良犬対策は成功をおさめています。
犬の登録と責任の所在
1990年に制定されたイギリスの環境保護法のもとでは、野良犬の捕獲と収容は地方自治体が責任を負うことになっています。この法のもとで野犬捕獲員は公務員として認められており、自治体に雇用されて野良犬を取り扱う仕事をします。野良犬が警察に連れてこられた場合は、警察も野良犬の受け入れを行ないます。 1981年にできた動物保健法の一環として1992年に制定された犬対策法は、飼い主の名前と住所が書かれているタグかプレートを犬の首輪につけずに犬を公道を歩かせる事を違法としました。
野犬捕獲員
ウォルサム・フォレストには、三人の野犬捕獲員がいます。いずれも動物関係の仕事を経験したことがあり、動物の扱いや世話が得意であるということで選ばれました。 3人は、この仕事に関係のある様々な講習を受けています。以下がその講習の一例です。
野犬捕獲員コース
犬および猫の管理
マイクロチップ挿入コース
野犬捕獲員上級コース
犬の習性
これらの講習は,イギリスのウッドグリーン動物保護施設にある動物福祉大学が提供しています。 また、公園や公共の草地で犬の糞の後始末を監視し啓発活動を行なう公園専門の犬対策職員も二人います。
野良犬のとらえかた
野良犬を捕獲するときには食べ物と忍耐強さがものをいいます!ウォルサム・フォレストの3人の野犬捕獲員は無線で連絡を取り合い、必要であれば後方支援を頼みます。彼らには、十分な装備を揃えた天井の高い運搬用のフォードのバンが三台与えられています。それぞれのバンに装備されている備品は、以下のとおりです。
特別仕様のスリップリード
標準グラスパー
保護用長手袋
餌、餌入れ容器
通常の檻
野生猫トラップ
柄長グラスパー
捕獲網
口輪
折りたたみ式の檻
かご
狂犬病保護スーツ
犬やキツネ用トラップと、危害を及ぼす犬用の保護スーツもあります。 最近までは、次のような3週毎のシフトで、運用されていました。
1週目午前7:00-午後 3:15
2週目午前8:15-午後 4:30
3週目午前11:00-午後 7:15
こうすれば1日12時間の対応が可能になり、残業時間も減ります。市民が予想もしないような早朝や夕方遅くにパトロールすることも可能です。このような通常シフトに加えて、24時間体制で緊急事態に備えます。財政的な問題のため、現在ウォルサム・フォレストでは、対応時間を午前9時から午前5時までに短縮することを余儀なくされ、緊急時の残業も制限されています。
犬の収容期間は?飼い主はどのように犬の行方を探せばいいのでしょうか?
捕獲された野良犬は、市町村が管理する犬の収容施設に7日間保管されます。飼い主が引き取りに来なければ、8日目に、新たな飼い主を見つけるために、動物保護団体の施設に移されます。飼い主は、警察や対策委員会を通じて自分の犬を探します。自治体当局に保護されていた飼い犬を引き取るときには、当局が費やした費用のすべてと、犬が逃げたことに対する罰金として法令で定めている25ポンドを支払います。 現在は、犬の保護費として一日5ポンドが請求され、保護されたすべての犬が受ける獣医による健康チェックと予防接種の費用は罰金の25ポンドに含まれます。
自治体とボランティア団体との関係
ボランティア団体との関係は良好です。野犬捕獲員は常にRSPCA(動物虐待防止王立協会)と連絡をとり、動物虐待が見つかれば調査員と一緒になって対応します。野犬捕獲員が法廷で証言することもよくあります。
啓発や飼い主責任の周知のために自治体が果たす役割
自治体では、地元の学校や市民グループの集まりに野犬捕獲員を派遣し、飼い主の責任を教えたり、捕獲員の職務内容を説明して、啓発活動に大きな役割を果たします。 毎年、「全国ペット週間」を企画し、動物福祉に関係する様々な団体の資金調達を助けたり、飼い主責任の普及を図ります。全国でペットショーやパレードなどを開催します。
危険な犬に関する法律
自治体の野犬捕獲員はみな、1991年の「危険な犬に関する法律」に基づいて権限を与えられた公務員です。このため、公共の場で危険とみなされた場合には、どんな犬でも捕獲することができます。また、この法律に違反したとみなされた犬も、すべて捕獲できます。
犬をつなぐことに関する法律
現在のイギリスには、犬をつなぐよう規定した国の法律はありません。しかし、「事務所兼自宅に関する条項」では、特定の公園、遊園地、休養施設で犬をつなぐことを盛り込んだ条例を自治体が作成することを認めています。また、「交通に関する法律」に基づいて公道で犬をつなぐよう行政命令を出すことができます。本対策委員会は、このような行政命令を出すよう関係省庁に働きかけています。
清潔
ウォルサムフォレストでは、公園、公共の草地、公道における犬の糞に関する条例を作成しています。 公道についての条例では、飼い主が犬に歩道や道端の草地に糞をさせることを不法行為であると規定します。公園や公共の草地に適用される条例は次のようなものになります。
子供の遊び場―犬の侵入が完全に禁止されます。
観賞用の公園―犬はつなぎ、糞の後始末をします。
公共の草地―犬が糞をしたら後始末します。
付録2) ペットに関する法的規制案▲目次へ戻る
一般的な事項
ペットを飼っている人やペットの世話をする人は、ペットの保健衛生と動物福祉についての責任を負います。
ペットを飼っている人やペットの世話をする人は、ペットの生理や習性を考慮した居所を用意し、世話をし、注意を払ってやります。具体的には、適切な餌、水、住処を提供し、運動をさせ、交流を図ります。
家畜化していない動物をペットとして飼ってはいけません。禁止するために厳しい規定を設けたり、飼ってもよい動物のリストをつくり(規定に)、リストに載っていない動物の飼育は許可制(あるいは認可制)にするのもいいでしょう。認可は、例外的な場合にのみ認めるようにします。たとえば、野生動物を自然に返すことができず、保護区域で飼う場合などです。
ペットを不必要に嫌がらせたり、苦痛を与えたりしてはいけません。
病気やケガをしている場合はすぐに治療を施します。必要ならば、獣医の診断を受けます。苦痛がひどくて安楽死が必要な場合は、経験のある担当者が即座に行ない、痛みや苦しみを最小限にします。
野良犬になるのを防止する手段
飼い犬を捨ててはいけません。
犬と猫(捨てられた場所で問題を引き起こす動物はすべて)には、持続的な痛みや苦痛を伴わないマイクロチップの挿入や入れ墨のような適切な長持ちする標識を施します。各個体ごとに違う番号を割り当て、その番号で飼い主や管理者の連絡先もわかるようにして集中管理します。
ペットのヨーロッパ内(実際は世界中でもかまわないわけですが)の移動が容易になるにつれて識別番号が足りなくならないようにし、国が変わっても同じ番号が使えるよう各国間の登録システムの整合性をはかります。そのような国際的なシステムを実現するには、現在のところマイクロチップを用いるのが最も有効です。
犬は、飼い主もしくは管理者の連絡先を明記した首輪を常につけるよう義務付けます。
新たに犬を飼うときには犬税を支払うような制度を導入します。課税制度を導入する前に充分な社会的認知が得られるようにします。年金生活者などの特定の人達は免除してもいいでしょう。徴収した税金は、野良犬対策や啓発活動に還元されます。
犬や猫の無計画な繁殖を防ぐために、避妊・去勢を奨励します。避妊や去勢を行なった犬の課税額は下げてもいいでしょう。
ケガや病気をした野良犬を発見した人は飼い主を探しますが、もし見つからなければ、すぐに関係当局に届け出ます。
飼い主がいない犬や標識をつけていない犬を捕獲する必要があると判断された場合は、動物の肉体的・心理的苦痛が最小限になるような方法で捕獲します。
野良犬が捕獲されて施設に収容されるときは、以上のような規定に準じた扱いをします。
引き取り手のない動物を処分する必要があるときには、常にこの付録2の46-48番に従って行ないます。
情報提供と啓発活動
関係当局は、「ペットを飼育する人の責任」について情報提供や啓発活動を行ないます。このような啓発では、衝動的にペットを飼うことを戒め、ペットを飼うことにより発生する義務や責任を強調し、避妊・去勢をするよう勧めます。
ペットの利用制限
闘犬を計画したり見物することは禁止します。
荷物を引かせる目的で犬を使用することは禁止します。
動物を賞品にすることは禁止します。
食品、毛皮、革の生産のようなペット以外の他の商業目的のためにペット動物を繁殖させることは禁止します。(専門性の高い科学研究のための系統維持などは特例とする必要があります)
飼い主がみつからず引き取り手のない動物を科学研究に使ってはいけません。
動物を、速さ、力、耐久力を競う競技に使うことは、関係当局から特別許可がおりない限り禁止されます(例えば、動物の健康や福祉に害がない競馬などのような特定のイベントには許可を出します)。このような競技は事後に再審査をし、動物の健康や福祉に問題がある場合には(例えばグレイハウンド・レース)許可を取り消します。許可がおりた場合には、以下のような一定の基準を設けて、条件を満たすよう同意させます。
参加する動物の年齢や健康条件に関する規定
動物の参加頻度に関する規定
競技に立ち会う獣医に関する規定
競技場のコースの建設や障害物の設定に関する規定
特定の動物種の使用禁止
競技に出場する動物には、行動や気性に影響を与えるどんな薬物も服用させてはいけません(ドーピング)。
ペット動物の健康や福祉を害するような訓練をさせてはいけません。特に、不必要な苦痛を与える人為的な手段によって本来の能力を上回ることを期待する訓練を強制してはいけません。
動物に苦痛を与えるようなショー、宣伝、あるいはこれと同等の目的の催しに動物を使用してはいけません。
外科的な処置や手術
ペット動物に治療目的でない「切除」を施してはいけません。ただし、社会的・福祉的理由に基づく避妊・去勢と、避妊・去勢を行なった野良猫への目印のために耳の先端を切除することは奨励されます。禁止される処置としては、耳や尾の切断、爪や声帯の除去などが含まれます。これらは、FECAVAの切除に関する方針(1998年)の付録9に基づいたものです。
痛みを伴う外科的処置は、すべて獣医が行ないます。ただし、処置が遅れることで動物福祉に反するような結果を招くような緊急の場合は除きます。可能な限り苦痛を和らげるようにします。
関係当局は、外科的処置や類似の手術について、許容される手法、麻酔の使用方法、年齢制限などのさらに詳細な規定を定めます。
動物が関係する特許取得を禁止します。
ペット動物に遺伝子操作を施す処置は当面は見合わせます(あるいは、厳しい制限や監視体制を伴う許可制にします。)
危害を及ぼす犬
人に危害を及ぼすことが判明した品種の犬の繁殖を制限する規定を必要ならば導入します。
しかし、規制を特定の品種に限定しても、その品種を特定するのが困難であるという実際上の問題が発生して、円滑な実施が難しい場合もあります。FECAVA人に危害を及ぼす犬の取り扱いに関する方針説明書(1998年)の付録10を参照。
登録と標識着用の義務づけ、公共の場での口輪の着用、避妊・去勢の義務づけ、動物輸入禁止についての規制などについて以下に述べます。
繁殖
販売目的で動物を繁殖させるブリーダーや繁殖業者は、認可制にして関係当局の監視下に置きます。この制度では、繁殖させる雌犬の最低および最高年齢、および出産させる回数や間隔を規定します。飼育設備や犬の取り扱い状態に問題がない場合にだけ認可を与えます。
認可されたブリーダーは、生まれた子犬についての詳細、販売や購入の記録をすべてとります。この記録は、立ち入り検査の際に閲覧できるようにしておき、必要ならば関係当局がいつでも押収できます。
特定の姿形の犬を得る目的での繁殖は、犬の健康や福祉を害する場合は禁止されます。
繁殖目的で飼う犬を選ぶ人は、選んだ犬が、生まれてくる子犬や母犬の健康や動物福祉を害するような解剖学的・生理学的・行動学的な特性を持っていても、それについての責任を負います。
販売/仲介
ペット動物の販売や仲介をする人はすべて、認可を取り関係当局の監視を受けます。認可には、動物福祉に関して満たすべき一定の条件を規定します。
認可仲介業者は、許可ブリーダーからだけペット動物を購入できます。ブリーダーの動物の販売は、このような業者を通じてではなく、直接販売するよう推奨します。
認可仲介業者は、購入や販売についての詳細な記録をとり、保管しておかなければなりません。この記録は立ち入り検査の際に閲覧できるようにし、必要ならば関係当局が予告なくいつでも押収できます。
ペット動物の売買は、認可施設でだけ行なうことができます。施設の認可は、動物の管理状況が適切で、獣医がいて、当局の監視を受ける施設に限られます。
ペット動物を販売する際には、求められたら前所有者やブリーダーなど過去の経歴についての詳細を提示しなければなりません(ただし、野良犬として収容され、過去の詳細が不明の場合は除く)。
16歳以下の人にペット動物を売ることはできません。
預託施設
ペット動物を預かる施設は認可制にし、関係当局の監視を受けます。設備や世話が不十分な施設には改善命令を出し、期限までに改善が見られない場合は、営業停止処分にします。
保護施設/避難施設
ペット動物の保護施設や避難施設も認可制にし、関係当局の監視を受けます。
運搬
ペット動物の運搬は、動物が苦痛を感じないように行ないます。運搬は、生きた動物の運搬に関する規定に準じて行ないます。
輸出/輸入
ペットの輸出入には、関係当局からの許可および輸出入に関する証明書が必要です。動物の輸出入に関する詳しいデータは、動物の種類ごと、輸出先、輸入先別に管理します。輸入動物の検疫体制を整えます。
殺処分/安楽死
ペット動物の殺処分は、獣医か他の有資格者だけが実施できます。ただし、獣医や他の有資格者が居合わせていないのに動物の苦痛を早く終わらせなければならないような緊急の場合を除きます。
殺処分は、肉体的、精神的に苦痛が最小限になるようにします。用いる方法は、次のいずれかでなければなりません。
瞬時に意識を失わせて死なせる方法
強い一般的な麻酔をまずは投与してから、意識が戻る前に確実に死なせる方法。
殺処分を実際に行なった人は、死体を何らかの方法で処分する前に、動物が確かに死んでいることを確認します。
殺処分の方法として以下のものは禁止されます。
溺死や他の窒息死
上述の項目46にある効果が得られるような投与量や投与方法が確立されていない毒物や薬物の使用
あらかじめ即座に意識を失わせる処理をせずに電気ショック死
制度の運用
担当する行政部局を規定し、その担当局が執り行なう職務も規定します。そして、単なるクレーム処理だけに終わらず積極的な運用ができるような手順を整えます。また、立ち入り検査の権限や罰則規定も設けます。罰則には以下のものを含みます。
罰金
懲役刑
動物飼育禁止
動物差し押さえ
倫理委員会
関係当局の首長に動物福祉全般について助言するためにペット倫理委員会を設けます。検討内容としては次のようなものがあります。
現行の法律およびその運用形態についての問題点
必要な新しい規定
ペットに関して討議しなければならない新たな問題点
ペットに関して今後行なっていくべき調査、および関連調査
倫理委員会は主要な関連団体の代表者と専門家によって構成されます。例えば、動物保護団体、獣医、科学者および学術経験者(ペットと人間とのきずなや、ペット行動学などの研究者)、ブリーダー(愛犬協会など)、動物販売業者、消費者などです。
(続く)
つかまらないヤマト君
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WSPA による野良犬対策マニュアルを、常総野犬対策に!(3)
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